ことわり(理)をはかる(料)。

ことわりをはかる。

それは調理とも献立とも異なる、料理の本来を表す言葉です。

その昔わたしたち一門は、ネタを右手で触れることさえ禁じられていました。

左手の指先を味蕾のごとく研鑽し、手にしたネタの具合を瞬時に右手の指の腹に伝達し、シャリの加減を定めてゆく。

シャリとネタの関係は、いつも必ず1対1で。最後に。シャリにネタを(ネタにシャリをではなく)両手で和えて、まとめてゆく。

鮨が、世界に比するものの無い技の文化として、確かに存在していた時代の話に違いありません。

しかし私たち鮨職人は、いつの頃からか味のことばかりを考えるようになってしまったようです。酢飯を2種類、3種類と用意して。(確かに私にもそのような時代がありました。)この時期のコハダはこんな酢加減だとか。この産地の鮪にはあの醤油が合うとか。味を調えることばかりを考えはじめた時、鮨は本来の魅力を急速に失ってしまったように思えてなりません。

鮨料理と耳にした時に、多くの人が「鮨と料理」と考える時代の中で、わたしは「鮨という料理」の力をもう一度信じてみようと思い、その言葉を屋号に冠することにしました。どうぞわたしが握る鮨を食べにきてください。